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【島根・出雲】八雲たなびく

dec.2016


今年は例年以上に全国を駆けまわった一年だった。そんな2016年の旅納めとなった場所は、神話の国・島根県出雲地方。

空からの眺めは、なるほど少々神さま目線に近いものがあるかもしれない。とはいえ、富士山や天の橋立てが見えると、つい人間目線でカメラを向けてしまう自分がいる。

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向かった取材先は、今も日本で唯一たたら操業が行われているエリアで、出雲から中国山地の奥へと分け入った場所だ。

わたしは島根が故郷ではあるが、生まれ育った西部の石見地方と、学生時代を過ごした東部の出雲地方は文化がまるで異なる。そのギャップも含めて島根全体に郷土愛を抱いているのだが、未開の地もまだまだ多く、今回仕事でまわれるのは楽しみでしょうがなかった(思い入れが深いからか、ついだらだらと長文になってしまいますが、時間の許す方は島根時間におつきあい願いたく……)。

途中、マエダの希望で横山大観コレクションと広大な日本庭園で知られる足立美術館へ立ち寄る。以前はなかった陶芸館に、河井寛次郎や魯山人の器が展示されていた。

大観をはじめとする近代画家の水墨画も、若いころに観たときよりも興味を惹かれて見入ってしまう、これが歳をとったということか、としみじみ感慨深い。

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とはいえ、一番興味深かったのは、苔の毛並み(?)にまで手入れが行き届いている庭のディテールだったり、借景のために向いの山に唐突に滝をつくってしまったりする、執着心にも近い庭造りへの情熱だったりする。

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そして目指したのは、かつて賑わいをみせたであろう街道筋に、現在一軒だけ残る鍛冶工房の『弘光』。

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江戸時代から代々受け継ぐ鍛造技術を今も誠実に守り抜きながらも、新たな意匠に挑む職人たちの姿に心を打たれる。新たな意匠とはいってもそれは、単に斬新なデザインなどという小手先のものではない。江戸の意匠を現代に復刻することから始まった、ある意味、時代に逆行する試みだ。

どこへ訪れても感じることだが、地域に受け継がれてきた伝統工芸というのは、時代とともに流行も環境も変わるのは自然な流れであるし、生き残りをかけたチャレンジは必須である。変わることで飛躍できる状況、または伝統的、古典的な技や作風を変えざるを得ない状況も数多く見てきたが、逆行することで成功している例は珍しいのではないだろうか。

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鉄を打つために火を起こした炉には、お湯を沸かす鉄瓶が掛けられていた。真っ赤に熱した鉄を手早く鍛造する職人の手は分厚く年輪を感じられたが、鉄瓶を素手でひょいと持ち上げたのを見て「熱くないんですか」と驚いて声をかけると

「あぁ、これでお茶を入れて飲むんですよ」

と、ちょっと的外れながらもまるで仙人のような言葉が返ってきた。

 

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帰路、さらに奥地を抜けて出雲方面にクルマを走らせると、すぐに雪景色が広がった。映画「もののけ姫」のたたら場のモデルになったエリアだとも聞くが、街灯がなく、すぐに日が落ちてひっそりとした山あいを走っていると、そんな空気もひしひしと感じられる。ちなみにこのあたりは、スサノオの「八岐大蛇」伝説が残る土地だ。

せっかくなので、一泊して界隈をめぐることに。

翌朝一番で訪れたのは出雲大社。

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八雲たなびくとは、まさにこの景色か。

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数日前に雪が降っただけあって悪天候を引きずっていたが、それも手伝ってか朝早いからか、人気がまばらで歩きやすいのはありがたい。

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かつてのJR大社駅跡は、往事の人出を彷彿とさせる改札の数の多さと対照的に人気の無さが却って際立って、どこかそれが物悲しさを誘う。

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飛行機の時間が許す限り走り回ろうと、とりあえず出雲と松江の間に大きく広がる宍道湖を時計回りにぐるりと一周。

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シジミが有名なだけあって、湖畔に降りると黒い殻がたくさん。久々にここまで来たんだからと、木工作家・藤原将史さんの工房にも訪れる。

軒先のゴザに干してある大量の大根を見て、「そういえば3年前もここを訪れたのは冬だったな」とマエダが呟く。

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そして、『RND』を紹介いただいた「DOOR」さんの静謐な空間へ。さまざまなイベントで人が集う魅力的なサロンだ。

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欲張れば、案外いろいろとまわれるもので、このほかにも、同じく『RND』をお取り扱いいただいている「artosBookStore」さん、そして学生時代にバイトをしていた珈琲店、玉造温泉近くにある湯町窯さんを駆け足でめぐり、滑り込みで夕刻の空港へ。

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山陰は、文字通り山の陰で、特に冬は曇天が多いのだが、この日は、日本海側の特典である美しい夕陽を拝みながら、2016年最後のフライトを終えたのだった。

[文:瀬上昌子/写真:前田義生]

 

 

【おまけの二葉】

城下町松江市内で見かけたネコ、背景は純和風であるが、風体と顔つきはまるで不思議の国のアリスに出てくるチェチャ猫だ。

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ランチは松江の旨いものを……、ではなく、母校の学食に紛れ込み(田舎の大学では外来者は珍しく、大変浮いていたのだが)数十年ぶりに学食オムライスを。1ミリも変わっていない半熟具合とケチャップ過剰気味の味わいに、記憶の舌鼓を打ったのでした。

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